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最高裁判所第二小法廷 昭和53年(行ツ)82号 判決

東京都台東区松が谷二丁目一四番七号

上告人

岡島次郎

右訴訟代理人弁護士

中條政好

東京都台東区蔵前二丁目八番一二号

被上告人

浅草税務署長 北川烈

右当事者間の東京高等裁判所昭和五二年(行コ)第二八号青色申告承認取消処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五三年二月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中條政好の上告理由書及び上告理由(補充)書記載の上告理由について

所論の点に関する原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 本林譲 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊 裁判官 栗本一夫)

上告代理人中條政好の上告理由書記載の上告理由

前提となる事実及び経過の概要

一、上告人は浅草税務署管内に住む貴金属商である処昭和三六年分以降昭和四〇年分に至る五年間に合計一億六千七百六万六百五十四円相当の金地金の密輸所得を得ていたが、之を上告人が隠匿していたという理由で昭和四二年三月六日被上告人は上告人に対し上告人の所得税につき別表二号記載のような更正をした。この更正に対し上告人はそれぞれ異議の申立て、審査請求を経て不服を申立てたが、何れも棄却されて已むを得ず上告人は昭和四五年十一月十三日訴訟を提起し、この訴は各年度分に係る所得税更正決定取消請求事件として東京地方裁判所民事第三部に別表第一号記載の通り現在係属中である。

別表第一号

課税年度 事件番号 備考

1 昭和三六年分 昭和四五年(行ウ)第二二四号

2 昭和三七年分 〃第二二三号

3 昭和三八年分 〃第二二五号

4 昭和三九年分 〃第二二二号

5 昭和四〇年分 〃第二二六号

二、 処が前項別表第一号記載の昭和三六年分及び昭和三七年分の各申告書は従前からの白色申告であつたが、昭和三八年分以降昭和四〇年分に至る三年分の各申告書は青申告書であり、申告した所得は旧所得税法(昭和二二年法津第一二七号。以下単に旧法とする)第四五条第一項の「青色申告書の提出を認められていた年分に係る個人の所得」に当り、この所得は法の規定により優遇されていたばかりでなく、申告後毎年行われる所得調査により当時既に是認されてもいたものである。

三、処が昭和四二年三月八日付で被上告人が上告人に対して行つた青色申告承認取消処分(甲一)により昭和三八年一月一日までさかのぼつて承認がその効力を失い、青色申告書以外の申告書即ち白色申告書とみなされるに至つたものである。

四、しかし前記青色申告承認取消通知書には、旧所得税法第二六条の三第十一項はその取消の基因となつた事由が同項に定める事由のいずれに該当するかを附記せよと命じ、また附記する事由の程度に関して最高裁の判断も積み重ねられているのにこれでは附記する事由とはいえないとされている「所得税法第一五〇条第一項第三号に該当しますから取消します」としか書いてなく又、青色申告書による所得を更正した場合その更正理由も附記を要するのである。更に当該取消通知書は行政不服審査法第五七条第一項に規定する不服申立てを書面ですることが出来る処分であるのに教示事項の記載が欠けていた。

別表第二号

所得金額 備考

年 確定申告額 一、〇一〇、〇〇〇円

36 推計密輸所得 八、一二七、九〇五円

年 確定申告額 二、三一八、二七九円

37 推計密輸所得 一六、三三五、七三〇円

年 確定申告額 一、九一五、五七七円

38 推計密輸所得 三五、三六五、四三六円

年 確定申告額 二、五九三、五三二円

39 推計密輸所得 七六、三二八、九九九円

年 確定申告額 二、七〇〇、〇〇〇円

40 推計密輸所得 三〇、九〇二、五八四円

推計密輸所得額合計 一六七、〇六〇、六五四円

上告理由

第一点 原判決は行政不服審査法(昭和三七年九月十五日法津第一六〇号。以下単に審査法)第五七条及び第五八条の規定の解釈適用を誤つた法令違背があり、この法令違背は原判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一、原審は上告人の請求棄却の理由その一において、上告人(控訴人)は本件処分は不正の目的を有するものであると主張するが、これを認めるに足る証拠はないと判示している。しかし上告人はこの点に関する理由は之を後に述べる。

二、本号において原審は本件取消処分に対する上告人の申立は旧国税通則法第七六条第五項第一号にいう処分に当らないことは明らかであるから、その然らざることを前提として右異議申立につき同条第一項の不服申立期間に関する規定の適用がないとする控訴人(上告人)の主張はその理由がないと述べている。しかし上告人の主張は違つている。

三、上告人の異議申立て

上告人が昭和四九年七月三〇日付で申立てた異議は昭和四二年三月八日付で被上告人が上告人に対して行つた昭和三八年分以降の承認を取消する目的で行つた処分に対する異議の申立てである。

旧所得税法(昭和二二年法津第二七号)第二六条の三第十一項は青色申告承認を取消した場合にする通知書にはその取消の基因となつた事由が同項の定める事由のいずれに該当するかを附記しなければならないと規定し、附記すべき事由の程度に関し最高裁の判断も相当積み重ねられている。しかもその大部分が理由附記の不備は違法とされているのに当該通知書にはこれでは附記する理由にならないとされている(所得税法第一五〇条第一項第三号に該当しますから取消します)としか記載されているばかりでなく行政不服審査法第五七条第一項に規定する教示の記載が欠けていた。

異議申立期間

そこで上告人は審査法第五八条第一項により当該異議を昭和四九年七月三〇日付で申立てたものである。従つてこの異議申立に付、処分庁並に審査庁、原審及び第一審裁判所が異議申立期間を徒過した不適法或は異議申立ての前置を欠くことを理由に却下の処分或は判決を言渡したことは違法である。

上告代理人中條政好の上告理由(補充)書記載の上告理由

上告理由第一点を左記の通り補充する。

補充事項の一

上告人の見解

一、上告人が昭和四九年七月三〇日付の異議申立が昭和四二年三月八日付の青色申告承認取消処分通知書に理由附記不備の暇疵の他に、その通知書教示事項の記載がなく、被上告人が上告人に対しては全く教示していなかつたことに基因するものであることは既に述べた通りである。その権利が何んであるのか又何に由来するのかについて上告人はまだ述べていなかつた。

二、しかし審査請求の裁決において昭和五〇年九月二〇竹平光明首席国税審判官は上告人の審査請求却下の理由を次のように述べている。

『審査法第五八条一項は処分庁が前記教示義務を果さなかつたためどこに不服申立をすればよいか判らない場合にこれを救済するために仮りに処分庁に不服申立書を提出させる制度を定めたものであつて請求人が主張するように不服申立期間の規制を全く排除する旨を規定しているものではない。』

三、上告人は旧通則法第七六条第項の適用を否認し、審査法第五八条第一項は教示を欠いた場合の相手方救済規定ではあるが、この権利の性質は形成権である。従つて消滅時効の適用がなくこの権利は必要に応じ何時でも之を行使することができると解すべきである。

以上

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